「便秘と下痢をくり返す」「お腹…
公開日:2026年09月13日
更新日:2026年09月09日

目次
ピンピンコロリを日常生活に。
横濱おなか診療所では、何歳まで生きるかだけでなく、元気に自分らしく暮らせる時間をできるだけ長くすることも大切だと考えています。
その土台の一つが、毎日食べ、栄養を取り込み、排泄する「おなか」の健康です。
今回は、最近よく耳にする「腸活」について、まず知っておきたい腸内細菌と腸内環境の基本から考えてみましょう。
腸活は「善玉菌を増やす」だけではありません
「腸活にはヨーグルトがよいのでしょうか?」
「善玉菌が多ければ、腸内環境はよいということですか?」
「腸内フローラ検査でビフィズス菌が少ないと言われました。増やした方がよいですか?」
診察室でも、このような疑問を持つ方は少なくありません。
まずお伝えしたいのは、腸内環境は「善玉菌が多いか、少ないか」だけで決まるものではないということです。
腸の中には多くの種類の微生物が暮らしています。そして大切なのは、そこに「誰がいるか」だけではありません。
その菌たちが、
何を食べ、どのように働き、何を作っているのか。
さらに、その菌たちが暮らす腸の粘膜がどのような状態なのか。
こうしたものをまとめて考えることで、「腸内環境」という言葉が少し分かりやすくなります。

そもそも腸内細菌とは何でしょうか?
私たちの腸の中には、非常に多くの微生物が存在しています。
ビフィズス菌や乳酸菌という名前は聞いたことがある方も多いと思いますが、そのほかにもBlautia(ブラウティア)、Roseburia(ロゼブリア)、Faecalibacterium(フィーカリバクテリウム)など、さまざまな菌が腸内で共存しています。
こうした腸内細菌の集まりを、花畑になぞらえて「腸内フローラ」と呼ぶことがあります。
ここで覚えていただきたいのは、腸内細菌は単に「腸の中に住んでいるだけの菌」ではないということです。
私たちが食べたものの一部を利用し、さまざまな物質を作りながら、人の身体と関わっています。
言い換えると、私たちと腸内細菌は、毎日の食事を通じてつながっているのです。
「善玉菌・悪玉菌」だけでは説明しきれない理由
腸内細菌について調べると、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」という分類を目にすることがあります。
腸内細菌をイメージする入口としては分かりやすいのですが、実際の腸内環境は、それほど単純ではありません。
「この菌は多ければ多いほどよい」
「この菌があれば悪い腸である」
と、菌の名前だけで健康状態を決めることは難しいからです。
大切なのは、菌の種類だけでなく、その菌が腸の中でどのような働きをしているかを見ることです。
たとえば同じような腸内細菌を持っている人でも、普段どのような食事をしているかによって、菌が利用できる栄養素は変わります。
その結果、菌が作る物質も変わる可能性があります。
ですから私は、腸内環境を「善玉菌の点数」のように一つの数字だけで評価するより、もう少し広い視点で見ることが大切だと考えています。

腸内細菌は、食べたものを使って「さまざまな物質」を作っている
腸内細菌の重要な役割の一つが、食べ物に含まれる成分を利用して代謝することです。
たとえば食物繊維や一部の難消化性糖質は、私たち自身の消化酵素だけでは十分に分解されず、大腸まで届きます。
そこで腸内細菌がそれらを利用します。
その過程で作られる代表的な物質が、
酢酸、プロピオン酸、酪酸などの「短鎖脂肪酸」です。
ここで腸内環境を、一つの流れとして考えてみましょう。
毎日の食事
↓
腸内細菌
↓
腸内細菌が作る代謝物
↓
腸や身体との関わり
という流れです。
つまり、「どんな菌を増やすか」という問いだけでなく、
「自分の腸内細菌に、どのように働いてもらうか」
という視点も大切なのです。
短鎖脂肪酸については次回の記事で詳しくお話ししますが、この考え方を知るだけでも、「腸活」の見え方はかなり変わってくると思います。

腸内環境は「住民・食事・作るもの・住む場所」で考えてみる
少し難しく感じた方は、腸を一つの「町」に例えてみてください。
腸内細菌は、そこに暮らす住民です。
私たちが毎日食べるものは、住民に届く食材や資源です。
そして住民である腸内細菌は、それを使ってさまざまな産物=代謝物を作ります。
さらに住民が暮らしている土地そのものにあたるのが、腸の粘膜や粘液層です。
町の状態を知ろうとするとき、「どんな人が住んでいるか」だけを見ても十分ではありません。
何を食べているのか。
どのような仕事をしているのか。
何を作り出しているのか。
そして、どのような環境で暮らしているのか。
腸も同じように考えると理解しやすくなります。
このシリーズでは、
第1回:誰がいる? ― 腸内細菌
第2回:何を作っている? ― 短鎖脂肪酸
第3回:どこで暮らしている? ― 腸粘膜・ムチン
という順番で、腸内環境を少しずつ掘り下げていきます。

腸内フローラ検査も「菌の多い・少ない」だけで見ない
最近は、便を調べて腸内細菌の構成を確認する「腸内フローラ検査」も知られるようになってきました。
検査結果を見ると、
「ビフィズス菌が少ない」
「この菌が平均より多い」
といった数字が気になると思います。
もちろん菌の構成を知ることには意味があります。
一方で、特定の菌が何%なら健康で、何%なら病気になる、と単純に決められるものではありません。
検査結果を見るときも、
「どんな菌がいるか」
だけでなく、
「普段どのような食生活をしているか」
「便通や腹部症状はどうか」
「その菌がどのような代謝物を作る可能性があるか」
といった情報を組み合わせて考えることが大切です。
検査は、点数をつけて一喜一憂するためのものではなく、自分の身体や生活習慣を振り返る一つのきっかけとして利用するのがよいと私は考えています。
今日からできる腸活は、特別なことから始めなくてよい
ここまで読むと、「では何を食べればよいのでしょう?」と思うかもしれません。
しかし、腸内環境には個人差があります。
一つの食品や一種類の菌だけで、すべての人の腸内環境が理想的になるというものではありません。
まずは、
- 食物繊維を含む食品を普段の食事に無理なく取り入れる
- 同じ食品だけに偏らず、さまざまな食品を食べる
- 極端な食事制限を続けない
- 便通やおなかの調子を時々振り返る
といった基本からで十分です。
特定の「腸活食品」をたくさん摂るよりも、毎日の食生活全体を整えることを先に考えてみてください。
すべてを一度に変える必要はありません。
まず一つ変えるなら、今日食べたものを振り返り、「最近、食事が同じものばかりになっていないかな」と確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。
おなかの症状が続くときは「腸活だけ」で済ませない
一方で、とても大切なことがあります。
便秘、下痢、おなかの張り、腹痛などが続いているときに、すべてを「腸内環境が悪いから」と考え、食品やサプリメントだけで何とかしようとするのはおすすめできません。
消化器症状の背景には、食生活や生活リズムだけでなく、治療が必要な病気が隠れている場合もあります。
特に、
- 便通の変化が長く続いている
- 症状が徐々に強くなっている
- 血便や黒い便がある
- 食欲低下や意図しない体重減少がある
- 腹痛で日常生活や睡眠に支障がある
といった場合には、一度消化器内科へ相談してください。
まず必要な病気がないかを確認し、必要に応じて検査や治療を行うことが医療の基本です。
その土台があって初めて、食生活や腸内環境について安心して考えることができます。

まとめ|腸活は「菌を増やす」から「菌に働いてもらう」へ
今回、最もお伝えしたかったのは、
腸内環境は「善玉菌が多いか少ないか」だけでは決まらない
ということです。
腸内環境を考えるときには、
どんな菌がいるのか。
何を食べているのか。
菌が何を作っているのか。
そして、その菌がどんな腸の環境で暮らしているのか。
まで少し視野を広げてみてください。
「腸活」というと特別な食品やサプリメントを探したくなるかもしれませんが、その前に毎日の食事や便通を振り返ることも立派な腸活です。
横濱おなか診療所が大切にしている「ピンピンコロリを日常生活に。」という考え方も、特別な健康法を始めることではありません。
自分の口で食べ、自分の足で動き、自分らしい生活をできるだけ長く続ける。
その土台として、おなかの健康を日々整えていくことも大切だと考えています。
そして次に考えたいのが、
「では、腸内細菌は私たちの腸の中で何を作っているのでしょうか?」
という疑問です。
次回は、腸内細菌が作る代表的な代謝物である「短鎖脂肪酸」について、酢酸・プロピオン酸・酪酸を中心に詳しくお話しします。
Q&A
Q1.善玉菌が多ければ腸内環境はよいのでしょうか?
必ずしも、菌の割合だけで腸内環境の良し悪しを判断できるわけではありません。
どのような菌がいるかに加えて、食生活、その菌がどのように働いているか、どのような代謝物を作っているかなどを合わせて考える必要があります。
Q2.ヨーグルトを毎日食べれば腸活になりますか?
ヨーグルトは腸活の選択肢の一つですが、「毎日食べれば誰でも腸内環境がよくなる」とは言えません。
特定の食品だけに頼らず、食物繊維を含む食品なども含め、食生活全体のバランスを見ることが大切です。
Q3.腸内フローラ検査で悪い結果が出たら病気でしょうか?
腸内フローラ検査の結果だけで病気を診断することはできません。
菌の構成は個人差が大きいため、便通や腹部症状、食生活などと合わせて受け止める必要があります。
Q4.腸内細菌が作る「短鎖脂肪酸」とは何ですか?
腸内細菌が食物繊維や難消化性糖質などを利用する過程で作る物質で、代表的なものに酢酸、プロピオン酸、酪酸があります。
腸内環境を考えるうえで重要な研究対象となっています。詳しくは次回の記事で解説します。
Q5.便秘や下痢も腸内環境を整えれば治りますか?
便秘や下痢にはさまざまな原因があります。
食事や生活習慣の見直しで改善する場合もありますが、病気や薬剤などが関係していることもあります。
症状が長く続く、悪化する、血便や体重減少を伴う場合などは、腸活だけで様子を見続けず医療機関へ相談してください。
腸活で大切なのは、特定の食品や菌だけに頼ることではなく、まず普段の食事や便通、おなかの調子を振り返ることです。
すべてを一度に変える必要はありません。
今日から続けられる小さなことを一つ選んでみてください。
一方で、便秘・下痢・腹痛・おなかの張りなどが続く場合や、血便、体重減少などを伴う場合には、「腸内環境のせい」と自己判断せず、一度ご相談ください。
横濱おなか診療所では、病気を見つけて適切に治療することを土台に、その先の「自分らしく元気に暮らせる時間」まで一緒に考える医療を大切にしています。
ピンピンコロリを日常生活に。
横濱おなか診療所
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