健康診断や横浜市の大腸がん検診…
公開日:2026年09月24日
更新日:2026年09月23日

目次
「ピンピンコロリを日常生活に。」
私たちは、何歳まで生きるかだけでなく、元気に自分らしく暮らせる時間をできるだけ長くすることも医療の大切な役割だと考えています。
そのためには、病気になってから治療するだけでなく、大腸がんになる前の段階で変化を見つけ、必要な対応につなげることも大切です。
大腸カメラは「受けること」だけでなく「どう見るか」も大切
「大腸カメラを一度受けて、異常なしと言われたから安心」
そう考える方は多いと思います。
もちろん、大腸カメラを受けること自体が大切な一歩です。
しかし、私がもう一つ大切だと考えているのが、「検査を受けたかどうか」だけではなく、「どれだけ丁寧に大腸の中を観察できたか」という視点です。
大腸は長く、曲がりくねっています。ひだの陰には小さな病変が隠れることもあり、平らで目立ちにくい病変もあります。
そこで、大腸内視鏡検査の質を考える指標の一つとして使われているのが、腺腫発見率(Adenoma Detection Rate:ADR)です。

腺腫発見率(ADR)とは?
ADRとは、簡単にいうと、一定の条件で大腸カメラを受けた患者さんのうち、少なくとも1個の腺腫が発見された方の割合です。
例えば、同じ条件の患者さん100人を検査して35人から腺腫が見つかった場合、ADRは35%となります。
日本消化器内視鏡学会もADRを、大腸内視鏡検査の質を評価する代表的なQuality Indicator(QI)の一つと位置づけています。
「ポリープ」と「腺腫」は同じではありません
「ポリープが見つかった」と聞くと、「がんなのでは?」と心配されるかもしれません。
大腸ポリープとは、大腸の粘膜から盛り上がった病変などを広く表す言葉で、そのすべてががんになるわけではありません。
一方、腺腫は将来大腸がんへ進展する可能性のある病変の一つです。
大腸がんにはいくつかの発生経路がありますが、腺腫から段階的にがんへ進む「adenoma-carcinoma sequence」は代表的な経路です。
そのため、腺腫を適切な段階で発見し、必要に応じて切除することが大腸がん予防につながります。

なぜADRが大腸がん予防と関係するの?
ADRが注目される大きな理由は、腺腫をよく見つけている内視鏡医ほど、その後に大腸がんが発見される割合が低かったという研究結果があるためです。
31万件以上の大腸内視鏡検査を解析した研究では、内視鏡医のADRが1ポイント高いことと、その後に見つかる「内視鏡検査後の大腸がん」のリスクが約3%低いことが関連していました。
死亡に至る大腸がんについても、ADRが高いほどリスクが低い関連が報告されています。
ただし、ここは少し注意が必要です。
これは「ADRを1%上げれば、一人ひとりの大腸がんリスクが必ず3%下がる」という意味ではありません。
多くの患者さんを長期間追跡した集団として、「腺腫を丁寧に見つけている内視鏡医の検査ほど、その後の大腸がんが少なかった」という関連を示したものです。
さらに、腺腫を内視鏡で切除した患者さんを長期間追跡した研究でも、大腸がん死亡の減少につながる可能性が示されています。
つまり、大腸カメラの役割は、すでにできている大腸がんを見つけるだけではありません。がんになる前の病変を見つけ、適切に対処することにもあります。

ADRは高ければ高いほどよい?数字だけを比べないでほしい理由
ここが、今回私が特にお伝えしたいところです。
ADRは重要な指標です。
しかし私は、「ADRが何%だから、この医療機関の方が優れている」と数字だけを競うことは、本来の目的ではないと考えています。
ADRの基準は対象によって変わります
日本消化器内視鏡学会の2020年ガイドラインでは、自覚症状のない中間リスク層について、男性30%以上、女性20%以上という目安が紹介されています。
一方、米国のASGE/ACGは2024年に基準を更新し、45歳以上の一定の外来大腸内視鏡を対象としたADRの最低目標を35%以上としました。
男女別では男性40%以上、女性30%以上が示されています。便潜血検査などが陽性になった方では、そもそも腺腫が見つかる確率が高いため、別の基準が用いられます。
このように、ADRは「誰を対象に、どのように計算した数字なのか」で変わります。
年齢や性別、検査を受けた理由、便潜血陽性者を含むかどうかなどが違えば、単純な施設間比較はできません。
ADRだけでは大腸カメラの質は決まりません
もう一つ重要なのは、ADRは「1個以上の腺腫を見つけた患者さんの割合」だという点です。
極端な話、一人の患者さんから最初の腺腫を1個見つければ、その患者さんについてADR上は「発見あり」となります。
だからこそ、日本のガイドラインでも、ADRだけを目標にすると「1個見つけたら十分」という発想につながる危険性が指摘されています。
私たちが目指したいのは、数字を上げることではありません。
一つ見つけたあとも観察をやめず、その患者さんの大腸を最後まで丁寧に見ること。
これが、ADRという数字以上に大切だと考えています。

見逃しを減らすために大切なこと
大腸カメラの質は、内視鏡医の技術だけで決まるものではありません。
① 腸をきれいにする前処置
便が多く残っていると、その陰に小さなポリープが隠れてしまいます。
下剤を飲むのは大変ですが、前処置によって大腸の中をきれいにすることは、病変を見つけやすくするための大切な準備です。
② 奥まで確認し、戻りながら丁寧に観察すること
大腸カメラは、奥まで入れることだけが目的ではありません。
大腸の一番奥まで到達したあと、カメラをゆっくり戻しながら、ひだの間や曲がり角まで観察していきます。
2024年のASGE/ACGのQuality Indicatorsでも、ADRだけではなく、盲腸まで到達できた割合、腸管洗浄の状態、観察のための抜去時間など、複数の指標を組み合わせて内視鏡の質を評価しています。正常な検査での平均抜去時間については8分以上が新たな目標とされています。
速く終わることと、よい検査であることは同じではありません。
必要な時間を使って、粘膜を丁寧に観察することが大切です。
③ 見つけた病変を適切に診断・切除すること
腺腫は、ただ見つければ終わりではありません。
大きさ、形、表面の模様、場所などから性質を判断し、必要な病変を適切に切除することまでが大切です。
日本の大腸ポリープ診療ガイドラインでは、発見した腺腫は大きさにかかわらず原則として切除することが弱く推奨されていますが、5mm以下の小さな隆起性腺腫では、年齢、全身状態、持病、ご本人の希望などによって経過観察が選択される場合もあります。
つまり、「小さいから見つけなくてもよい」のではなく、小さな病変まできちんと認識したうえで、切除するのか経過を見るのかを判断することが大切です。

横濱おなか診療所が腺腫発見で大切にしていること
私が大腸カメラで大切にしたいのは、ADRという数字そのものを競うことではなく、見逃しをできるだけ減らすために、一人ひとりの大腸を丁寧に観察することです。
小さな腺腫が見つかったとき、それは患者さんにとって何の症状もない小さな変化かもしれません。
しかし、その段階で気づき、必要に応じて適切に切除することは、将来の大腸がんを考えるうえで意味があります。
一方で、「たくさん切ればよい」ということでもありません。
切除には出血などのリスクもありますので、病変の性質や大きさ、患者さんの年齢や持病、服用している薬なども考えながら判断します。
当院では、大腸カメラで比較的小さなポリープが見つかった場合、状態に応じてその場で切除できることもあります。
見つけること、正しく判断すること、必要なものを適切に治療すること。
この三つを一つの流れとして考えることが、大腸内視鏡検査の「質」につながると私は考えています。
どのような方が大腸カメラを相談した方がよい?
大腸カメラを受けるタイミングは、一人ひとり異なります。
特に、便潜血検査で陽性を指摘された方、血便がある方、便秘や下痢など便通の変化が続く方、過去に大腸ポリープを切除したことがある方、大腸がんの家族歴がある方などは、一度消化器内科で相談してみてください。横濱おなか診療所でも、このような方について症状や既往歴を確認し、必要に応じて大腸内視鏡検査を検討しています。
「症状がないから大丈夫」とは限りません。
腺腫や早期の大腸がんは、症状がない段階で見つかることもあります。
一方で、すべての方に同じ間隔で大腸カメラが必要なわけでもありません。
これまでの検査結果やポリープの数・大きさ、家族歴などによって、次回検査の時期は変わります。
まとめ|大切なのは「数字」ではなく、その先にいる患者さん
ADRは、大腸カメラの質を考えるうえで、とても大切な指標です。
しかし、ADRは目的ではなく、よりよい検査を行えているかを振り返るための「ものさし」の一つです。
私たちが本当に目指したいのは、ADRの数字を上げることそのものではありません。
見逃しをできるだけ減らし、がんになる可能性のある病変を早い段階で見つけ、必要な治療につなげることです。
大腸がんになってから治療するだけではなく、できるだけその一歩手前で気づくこと。
それも、「自分らしく元気に暮らせる時間」を支える医療の一つだと私は考えています。
Q&A|腺腫発見率(ADR)と大腸カメラについて
Q1.ADRが高い医療機関を選べば安心ですか?
ADRは重要ですが、数字だけで大腸カメラの質を判断することはできません。
ADRは患者さんの年齢、性別、検査理由、便潜血陽性者を含むかなどによって変化します。算出条件が違う施設同士の数字を単純に比較することは適切ではありません。
前処置の質、全大腸を観察できているか、十分な観察時間を確保しているか、病変を適切に切除できているかなども合わせて考える必要があります。
Q2.ADRは何%以上ならよいのでしょうか?
一つの数字をすべての大腸カメラに当てはめることはできません。
日本の2020年ガイドラインでは無症状の中間リスク層について男性30%以上、女性20%以上が示されています。
一方、米国では2024年に対象の定義が変更され、一定の外来大腸内視鏡について35%以上という基準が示されました。
そのため、数字を見る場合には「どの患者さんを対象に計算したADRなのか」まで確認する必要があります。
Q3.腺腫が見つかったら、大腸がんということですか?
いいえ。腺腫と大腸がんは同じものではありません。
腺腫は基本的には良性の腫瘍ですが、一部は時間をかけて大きくなり、がんへ進展する可能性があります。
そのため、病変の大きさや形などを確認し、必要に応じて内視鏡で切除します。
Q4.小さなポリープでも全部切除した方がよいですか?
大きさだけで一律に決めるわけではありません。
腺腫と考えられる病変は切除が検討されますが、5mm以下の小さな隆起性腺腫などでは、年齢や全身状態などによって経過観察が選ばれることもあります。
反対に、小さくても形からがんが疑われる病変では、適切な診断・治療が必要です。
Q5.一度大腸カメラで異常がなければ、もう受けなくてもよいですか?
一度異常がなかったからといって、今後ずっと検査が不要とは限りません。
次回の検査時期は、年齢、家族歴、今回の検査の質、過去に見つかったポリープの数や大きさなどによって異なります。
検査後に「次はいつ受けるのか」まで確認しておくことをおすすめします。
大腸カメラは、「受けること」そのものがゴールではありません。
何を見つけ、その結果をその後の健康にどうつなげるかまでが大切です。
便潜血陽性を指摘された方、血便や便通の変化が続く方、以前に大腸ポリープを切除したことがあり次回の検査時期が分からない方は、その段階でご相談いただいて構いません。
横濱おなか診療所では、「ピンピンコロリを日常生活に。」を合言葉に、病気を治療するだけでなく、その一歩手前で変化に気づき、「自分らしく元気に暮らせる時間」を支えることも大切にしています。









