大腸カメラの「麻酔」が不安な方…
公開日:2026年08月05日
更新日:2026年08月05日

目次
疲れや息切れを「年齢のせい」で済ませていませんか?
「最近、少し歩いただけで疲れるようになりました」
「階段を上ると息が切れます」
「人の名前が出てこないことが増え、頭がぼんやりします」
50代以降になると、このような変化を「もう年だから仕方がない」と受け止めてしまう方が少なくありません。
もちろん、体力や記憶力は年齢とともに変化します。
ただし、以前より明らかに疲れやすくなった、日常の動作で息切れする、頭が働きにくい状態が続く場合には、年齢以外の原因も確認した方がよいでしょう。
その一つが鉄不足です。
鉄というと、貧血になったときに必要な栄養素という印象があるかもしれません。
しかし実際には、鉄不足はヘモグロビンが低下して「貧血」と診断される前から始まります。
また、鉄は酸素を運ぶだけでなく、細胞のエネルギーであるATPや、脳内で情報を伝える物質を作る反応にも関わっています。
この記事では、鉄不足で起こり得る症状、貧血になる前の変化、中高年以降で注意したい原因、医療機関を受診する目安を順番に説明します。

まず知っておきたい結論
疲れや息切れ、頭のぼんやり感があるからといって、必ず鉄不足というわけではありません。
睡眠不足、運動不足、心臓や肺の病気、甲状腺機能の異常、薬の影響など、さまざまな原因が考えられます。
一方で、次のような場合には、鉄不足を含めた血液検査を受ける価値があります。
- 疲れや息切れが数週間続いている
- 以前できていた家事や散歩がつらくなった
- めまい、動悸、頭痛、冷えなどを伴う
- 健康診断で貧血や便潜血を指摘された
- 男性または閉経後の女性で鉄不足を疑われた
大切なのは、疲れたから鉄のサプリメントを飲むことではなく、本当に鉄が不足しているか、なぜ不足したのかを確かめることです。
鉄は酸素を運ぶだけの栄養素ではありません
ヘモグロビンは酸素を運ぶ配送車
鉄の代表的な役割は、赤血球に含まれるヘモグロビンの材料になることです。
ヘモグロビンは、肺で受け取った酸素を全身へ届ける「配送車」のような存在です。
筋肉にはミオグロビンというタンパク質があり、届けられた酸素を受け取って必要なときに使います。
鉄は、この酸素の受け渡しに欠かせません。
鉄不足が進んでヘモグロビンが減ると、体の隅々まで酸素を届けにくくなります。
その結果、疲労感、動悸、めまい、労作時の息切れなどが現れます。
鉄はATP産生を支える発電所の部品
私たちの細胞には、ミトコンドリアという小さな「発電所」があります。
そこで作られるのが、体を動かすエネルギーであるATPです。
ATPは、家庭で使う電気に似ています。
歩く、心臓を動かす、体温を保つ、食べ物を消化する、頭を働かせるなど、ほとんどの生命活動に使われています。
ミトコンドリア内では、電子伝達系という仕組みを使ってATPを作ります。
この電子の受け渡しに、ヘム鉄や鉄‐硫黄クラスターが部品として組み込まれています。
講義では、鉄を「酸素と電子を安全に扱うための金属部品」と表現していました。
そのため鉄不足では、酸素を運ぶ力だけでなく、届いた酸素を使ってエネルギーを作る過程も十分に働かなくなる可能性があります。
「検査では強い貧血ではないのに、どうしてこんなに疲れるのだろう」という場合、こうした仕組みが関係していることもあります。
ただし、疲労の原因は多いため、鉄不足だけに決めつけないことも大切です。
脳内物質を作る反応にも鉄が必要
鉄は、脳内で神経同士の情報を伝える物質を作る反応にも関わっています。
例えば、意欲、注意力、運動などに関係するドーパミンを作る途中では、鉄を必要とする酵素が働きます。
鉄不足によって、集中しにくい、頭がぼんやりする、意欲が出にくいと感じる方もいます。
ただし、物忘れがあるから鉄不足とは限りません。
睡眠時無呼吸症候群、甲状腺疾患、ビタミンB12や葉酸の不足、うつ状態、薬の副作用、認知症などでも似た症状が起こります。
急に物忘れが進んだ、日時や場所が分からなくなる、金銭管理や服薬が難しくなった場合には、鉄の検査だけでなく、神経内科や認知症外来などでの評価も必要です。

貧血になる前から鉄不足は始まります
体内の鉄を家計に例えてみましょう。
- フェリチンは、銀行に置いてある「貯金」
- 血清鉄は、すぐ使える「財布のお金」
- ヘモグロビンは、酸素運搬という仕事に使われている「生活費」
鉄の摂取が減ったり、出血で失ったりすると、まず貯金に当たるフェリチンが減ります。
それでもしばらくは、貯金を取り崩してヘモグロビンを保つことができます。
そのため、健康診断でヘモグロビンが基準範囲でも、鉄の蓄えが減っていることがあります。
これを非貧血性鉄欠乏や潜在性鉄欠乏と呼びます。
鉄不足は、貯蔵鉄、血中の鉄、最後にヘモグロビンの順に影響が現れるという考え方です。
フェリチンが30ng/mL未満なら鉄不足を疑うという考え方がありますが、診断に用いる値は一律ではありません。
WHOは一般成人の鉄欠乏を示す値としてフェリチン15µg/L未満を示す一方、炎症がある成人では70µg/L未満を一つの目安としています。
つまり、数値は炎症の有無や基礎疾患、ほかの検査結果と合わせて解釈する必要があります。

50~80代で鉄不足が見つかったときに考える原因
鉄不足の原因として、食事量の減少や肉・魚をあまり食べないことはよくあります。
しかし、中高年以降では、食事だけでなく「鉄が失われていないか」「吸収できているか」を確認することが重要です。
例えば、次のような背景があります。
- 胃潰瘍や十二指腸潰瘍などからの出血
- 大腸ポリープ、大腸がん、胃がんなどによる少量の出血
- 痔からの出血
- 痛み止め、抗血小板薬、抗凝固薬などに伴う消化管出血
- ピロリ菌感染や胃切除後などによる吸収低下
- 慢性の炎症や腎臓病に伴う鉄利用の低下
特に男性と閉経後女性で鉄欠乏性貧血が確認された場合は、消化管からの出血源を調べることが重要とされています。
状況に応じて胃カメラや大腸カメラなどが検討されます。
目に見える血便がなくても、少量の出血が長期間続いて鉄不足になることがあります。
便潜血検査が陽性だった方、便が黒っぽい方、食欲低下や体重減少を伴う方は、早めに相談してください。

自宅でできることと避けたいこと
まず一つ変えるなら、毎日の食事に「主菜」を意識してみましょう。
赤身の肉、魚、貝類などには、比較的吸収されやすいヘム鉄が含まれます。
大豆製品、緑黄色野菜、海藻などに含まれる非ヘム鉄は、ビタミンCを含む野菜や果物と組み合わせると吸収を助けられます。
ただし、鉄だけを増やせばよいわけではありません。
赤血球やヘモグロビンを作るには、タンパク質、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、銅なども必要です。肉、魚、卵、大豆製品、野菜を無理なく組み合わせましょう。
一方、検査をせずに鉄サプリメントを長期間飲み続けることはおすすめしません。
鉄は不足しても問題になりますが、過剰でも体に蓄積し、胃腸症状や酸化ストレスにつながる可能性があります。
鉄剤では吐き気、胃痛、便秘、下痢、黒い便などが起こることもあります。
服用中の薬がある方は、自己判断で中止せず、診察時に薬やサプリメントの内容を伝えてください。
医療機関を受診する目安
少し様子を見られることがある場合
一時的な睡眠不足や忙しさに心当たりがあり、症状が軽く、休息によって徐々に改善している場合は、数日ほど生活を整えながら経過をみられることがあります。
ただし、症状を繰り返す場合や、以前より活動量が明らかに落ちた場合は、年齢だけで判断しない方が安心です。
通常の診療時間内に相談したい場合
次のような場合は、内科やかかりつけ医へ相談してください。
- 疲れ、息切れ、頭のぼんやり感が2~4週間ほど続く
- 日常の家事、買い物、散歩に支障がある
- 動悸、めまい、頭痛、冷えなどを伴う
- 健康診断で貧血や便潜血陽性を指摘された
- 食欲低下、体重減少、便通の変化がある
- 鉄剤やサプリメントを飲んでも改善しない
- 男性または閉経後女性で鉄不足を指摘された
期間は一つの目安です。症状が強い場合や、徐々に悪化している場合は、2~4週間を待たずに受診してください。
早めの受診や救急相談を検討する場合
安静にしていても息苦しい、胸痛や強い動悸がある、意識を失った、立っていられないほどふらつく場合は、早めの受診が必要です。
また、タールのように真っ黒な便、多量の血便、吐血がある場合は、消化管出血の可能性があります。
症状が強い場合は、救急医療機関や地域の救急相談を利用してください。

医療機関では何を調べるの?
診察では、症状が始まった時期、体重や食欲の変化、便の色、出血の有無、食事内容、服用中の薬、胃腸の病気や手術歴などを確認します。
血液検査では、ヘモグロビンだけでなく、赤血球の大きさを示すMCV、フェリチン、血清鉄、TIBC、トランスフェリン飽和度などを組み合わせます。
炎症があるとフェリチンが高くなるため、CRPも参考にします。必要に応じて、ビタミンB12、葉酸、肝機能、腎機能なども調べます。
消化管からの出血が疑われる場合には、便潜血検査、胃カメラ、大腸カメラなどを検討します。
すべての方に同じ検査を行うわけではなく、年齢、症状、貧血の程度、過去の検査歴などを確認したうえで相談します。
まとめ
鉄は、ヘモグロビンの材料として酸素を運ぶだけではありません。
ミトコンドリアでのATP産生や、脳内物質を作る反応にも関わる、全身にとって重要な栄養素です。
鉄不足は、ヘモグロビンが低下して貧血と診断される前から始まることがあります。
そのため、健診で「貧血なし」と言われても、疲れや息切れが続く場合には、ほかの原因とともに鉄の蓄えを確認することがあります。
一方で、中高年以降の鉄不足では、単に鉄を補うだけでなく、胃や腸からの出血、吸収障害、慢性炎症などの原因を確認することが大切です。
「年齢のせい」と決めつけず、以前との変化に目を向けてみてください。
Q&A
Q1.ヘモグロビンが正常なら、鉄不足ではありませんか?
ヘモグロビンが正常でも、鉄の蓄えが減っていることがあります。
鉄不足では、まずフェリチンとして蓄えられている鉄が減り、その後にヘモグロビンが低下します。
疲労や息切れが続く場合は、フェリチンやトランスフェリン飽和度などを含めて評価することがあります。
ただし、フェリチンの値は炎症や肝疾患の影響を受けるため、数値だけで自己診断することはできません。
Q2.疲れや物忘れがあれば、鉄サプリメントを飲んでもよいですか?
検査を受けずに長期間飲み続けることはおすすめしません。
疲れや物忘れには、睡眠不足、心肺疾患、甲状腺疾患、ビタミン不足、薬の影響など、鉄不足以外の原因もあります。
また、鉄は過剰になっても問題となるため、まず不足の有無と原因を確認しましょう。
すでに鉄サプリメントを使用している場合は、商品名や摂取量が分かるものを受診時にお持ちください。
Q3.鉄不足では何科を受診すればよいですか?
まずは内科やかかりつけ医で相談できます。
男性や閉経後女性、便潜血陽性、血便、黒い便、腹部症状などがある場合は、消化器内科で胃腸からの出血を確認することがあります。
物忘れが急に進んだ場合や生活に支障がある場合には、神経内科や認知症を扱う診療科への相談が適しています。
Q4.鉄不足が見つかったら、胃カメラや大腸カメラが必要ですか?
すべての方に必要というわけではありません。
年齢、性別、貧血の程度、便潜血、腹部症状、過去の検査歴などから判断します。
特に男性や閉経後女性で原因不明の鉄欠乏性貧血がある場合は、消化管出血の確認が重要です。
検査が必要か迷う場合も、まず診察で状況を整理してから相談できます。
Q5.食事だけで鉄不足を改善できますか?
軽度の摂取不足であれば、食事の見直しが役立つことがあります。
ただし、出血、吸収障害、慢性炎症などが原因の場合は、食事だけでは改善しにくいことがあります。
鉄欠乏性貧血が明らかな場合には、鉄剤などによる治療が必要になることもあります。
食事を整えても症状や検査値が改善しない場合は、原因を確認しましょう。
疲れや息切れが続くときや、健康診断で貧血や便潜血を指摘されたときは、「年齢だから」と無理に自己判断を続けず、一度ご相談ください。
横濱おなか診療所では、血液検査の結果だけでなく、食事、体重変化、便の状態、服用中の薬なども確認しながら、鉄不足の背景を一緒に整理します。
胃や腸からの出血が疑われる場合には、症状やこれまでの検査歴に応じて、胃カメラや大腸カメラの必要性をご相談します。
症状をうまく説明できない場合も、そのままお話しいただいて構いません。健康診断の結果やお薬手帳がある方は、診察時にお持ちください。
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