なんとなく不調と「栄養不足」を…
公開日:2026年09月12日
更新日:2026年09月09日

目次
「ピンピンコロリを日常生活に。」
横濱おなか診療所では、何歳まで生きるかだけでなく、「元気に自分らしく暮らせる時間」をできるだけ長くすることも大切にしています。
そのためには、栄養不足をただ補うだけでなく、なぜ不足したのかを考えることも重要です。
鉄の代謝シリーズでは、これまで鉄が身体の中でどのように吸収され、運ばれ、利用されているのかを見てきました。
鉄は、食事からとればそのまま働くわけではありません。消化管から吸収され、血液中で運ばれ、必要な場所で使われ、余った分は貯蔵されます。
つまり、鉄の状態を考えるときには、「どれだけ食べたか」だけでなく、身体の中で鉄がどのように扱われているかを見る必要があります。
前回までの内容を踏まえると、次に気になるのは、
「では、なぜ鉄が不足するのだろう?」
ということではないでしょうか。
「フェリチンが低いと言われたので鉄サプリを飲んでいるけれど、なかなか増えない」
「鉄を意識して食べているのに、また鉄不足を指摘された」
「鉄剤をやめると、しばらくしてまた貧血になる」
こうした経験のある方はいらっしゃらないでしょうか。
鉄不足というと、まず「鉄分の多いものを食べよう」「鉄サプリを飲もう」と考えがちです。
もちろん、鉄が不足していれば適切に補うことは大切です。
しかし、鉄の代謝を知ると、もう一つ大切な視点が見えてきます。
それは、
「なぜ鉄が不足したのだろう?」
と考えることです。
鉄不足には、単なる食事不足だけでなく、吸収できない、どこかから失っている、必要量が増えている、炎症のためうまく使えないなど、さまざまな背景があります。
鉄を補給するだけでは同じことを繰り返してしまう場合があるのは、このためです。

鉄不足は「どれだけとるか」より「なぜ不足したか」が大切
鉄は、食事から吸収され、血液中で運ばれ、赤血球や筋肉などで利用されます。
また、すぐに使わない鉄はフェリチンなどの形で貯蔵されます。
この流れのどこかに問題が起こると、鉄不足につながります。
鉄不足を、穴の開いたバケツに例えてみましょう。
水が減っているからと、上から一生懸命水を足しても、底に穴が開いていればなかなか水はたまりません。
鉄も同じです。
「入ってくる鉄が少ない」のか、「吸収できない」のか、「身体の外へ出ていっている」のか。
あるいは、「必要な量が増えている」のか、「炎症によってうまく使えない」のか。
ここを整理することが、繰り返す鉄不足を考える第一歩です。
フェリチンは「鉄の貯金箱」―ただし数字だけでは判断できません
鉄の状態を調べるときによく使われる検査がフェリチンです。
分かりやすく言えば、ヘモグロビンが「今使っている鉄」を反映する指標の一つだとすれば、フェリチンは身体に蓄えている鉄の状態を見るための指標です。
そのため、ヘモグロビンがまだ正常でも、フェリチンが低下していることがあります。
これは「貧血になる前の段階で鉄の貯えが減っている」状態として捉えられることがあります。
一方、ここで注意したいのが、
「フェリチンの数字だけを見れば、鉄の状態がすべて分かるわけではない」
ということです。
フェリチンは炎症や感染症などがあると上昇することがあります。
そのため、鉄が不足していてもフェリチンが思ったほど低くならない場合があります。
実際の診療では、ヘモグロビンや赤血球の大きさ、フェリチンだけでなく、必要に応じて血清鉄、トランスフェリン飽和度、CRPなどを合わせて考えます。
つまり、「フェリチン○○だから大丈夫」「○○以下だから必ず鉄不足」と、一つの数字だけで自己判断しないことが大切です。

鉄不足になる5つの主な理由
では、なぜ鉄が不足するのでしょうか。
鉄の代謝の流れに沿って考えると、大きく5つに分けることができます。
① そもそも食事から十分にとれていない
まず考えるのが摂取不足です。
たとえば、
- 食事量そのものが少なくなった
- 肉や魚をほとんど食べない
- 極端なダイエットを続けている
- 食欲低下で食べられる量が減った
といった場合です。
特にミドル~シニア世代では、「食べすぎないように」と意識するあまり、必要な栄養まで減ってしまうことがあります。
鉄だけではなく、たんぱく質やほかのビタミン・ミネラルも含めて、まず現在の食事量を振り返ってみることが大切です。
② 食べていても、うまく吸収できていない
ここは、消化器内科としてぜひ知っていただきたいところです。
「鉄を食べている」ことと、「身体に吸収できている」ことは同じではありません。
鉄は主に十二指腸を中心とした消化管上部で吸収されます。
胃や十二指腸の状態、胃の手術歴、セリアック病などの吸収障害が鉄不足に関係する場合があります。
胃酸を強く抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)も、非ヘム鉄の吸収量を低下させる可能性があります。
また、鉄欠乏性貧血ではピロリ菌感染が関与している場合もあります。
もちろん、胃薬を飲んでいるからといって自己判断で中止する必要はありません。
「なぜ鉄が増えないのだろう」と考える際に、胃腸の状態や服用中の薬も確認材料になるということです。
③ どこかから鉄を失っている
鉄不足で非常に重要なのが出血です。
月経のある女性では、経血量が多いことが鉄不足の大きな原因になります。
一方、男性や閉経後の女性で鉄欠乏性貧血が確認された場合は、胃や大腸などから少量ずつ出血していないかを考えることが特に大切です。
胃・十二指腸潰瘍、大腸ポリープ、炎症性腸疾患など、消化管には慢性的な出血を起こす病気があります。
頻度は高くありませんが、消化管がんが鉄欠乏性貧血をきっかけに見つかることもあります。
ただし、フェリチンが少し低いというだけで、全員に胃カメラや大腸カメラが必要という意味ではありません。
年齢、性別、貧血の程度、消化器症状、便潜血、既往歴などを合わせて考えます。
④ 必要な鉄の量が増えている
成長期や妊娠中などは、身体が必要とする鉄の量そのものが増えます。
また、月経のある女性では月経のない女性より鉄の必要量が多くなります。
つまり「同じ食事をしているのだから大丈夫」とは限らず、その人の身体の状況によって必要量も変わります。
⑤ 炎症によって鉄をうまく使えない
もう一つ知っておきたいのが、身体に鉄があっても使いにくくなる状態です。
慢性的な炎症が続くと、身体は鉄を血液中へ出しにくくする方向へ働きます。
このとき、フェリチンは正常~高値を示すこともあります。
そのため、炎症性疾患、慢性感染症などが背景にある方では、フェリチンだけを見て「鉄は十分」と判断できないことがあります。

鉄は「一人では働けない」―ビタミンCやほかの栄養素との関係
鉄について考えるとき、鉄だけに注目しすぎないことも大切です。
特にビタミンCは、植物性食品などに含まれる非ヘム鉄の吸収を高めることが知られています。
たとえば、大豆製品や青菜など鉄を含む食材を、野菜や果物などビタミンCを含む食品と組み合わせるのも一つの方法です。
また、血液をつくることや身体の代謝には、ビタミンB群、銅、亜鉛などさまざまな栄養素が関係しています。
ただし、これは
「鉄と一緒に全部のサプリを飲めばよい」
という意味ではありません。
大切なのは、不足しているものを必要な範囲で補うことです。
「ビタミン・ミネラルが身体でどのように働くか、詳しくはこちら」

鉄サプリを自己判断で増やし続ける前に
「フェリチンが低いから、鉄をもっと飲もう」
と考える前に、一度立ち止まってください。
鉄は身体に必要な栄養素ですが、多ければ多いほどよいわけではありません。
サプリメントを利用している方は、
何を、1日何mg、どのくらいの期間飲んでいるか
を一度確認してみましょう。
受診するときには、サプリメントの容器や成分表示の写真を持参していただくと、診察の参考になります。
医療機関では何を確認するの?
鉄不足が疑われる場合、私はまず「鉄を処方するかどうか」だけではなく、背景を一緒に整理することが大切だと考えています。
たとえば、
食事量は減っていないか。
月経量は多くないか。
血便や黒い便はないか。
胃の手術を受けたことはないか。
胃腸症状はないか。
どのような薬やサプリメントを使用しているか。
炎症を伴う病気はないか。
といった点です。
そのうえで血液検査の結果を確認し、必要な場合には胃カメラ、大腸カメラなどを相談します。
検査を増やすことそのものが目的ではありません。
「なぜ鉄が不足しているのか」を説明できる材料を集め、その人に合った対応につなげることが目的です。

特に消化器を調べた方がよい場合
鉄不足や貧血に加えて、
- 血便や黒い便がある
- 便潜血検査が陽性だった
- 原因の分からない体重減少がある
- 胃痛や腹痛などの症状が続く
- 男性または閉経後女性で鉄欠乏性貧血を指摘された
- 鉄を補っても繰り返し鉄欠乏性貧血になる
といった場合には、消化管の病気がないか確認を検討します。
黒い便、大量の出血、強い息切れやふらつきなどがある場合は、通常の予約を待たず、症状に応じて早めの医療機関受診を検討してください。
まず一つ始めるなら「鉄を足す」前に原因を振り返る
すべてを一度に調べたり、食生活を完璧に変えたりする必要はありません。
まず一つ始めるなら、
「なぜ自分の鉄が減ったのだろう?」
と振り返ってみてください。
最近食事量が減っていないか。
ダイエットをしていないか。
月経量が増えていないか。
胃腸の症状はないか。
便の色に変化はないか。
長く飲んでいる薬やサプリはないか。
鉄不足を身体から届いた一つの情報として捉えると、単なる「鉄分不足」よりも広い視点で健康を見直すことができます。
まとめ|鉄不足は身体からの「原因を探して」のサイン
鉄の代謝を知ると、鉄不足は単に「鉄を食べていない」という問題ではないことが分かります。
鉄が入ってこない。
吸収できない。
出血によって失っている。
必要量が増えている。
炎症によって使いにくくなっている。
原因が違えば、対応も変わります。
鉄不足が見つかったとき、鉄を適切に補うことはもちろん大切です。
しかし、それと同じくらい大切なのが、
「なぜ不足したのか」
を考えることです。
横濱おなか診療所では、「ピンピンコロリを日常生活に。」という考えのもと、病気を見つけて治療することに加えて、こうした身体の小さな変化をこれからの健康を考えるきっかけにすることも大切にしています。
鉄不足を「鉄を足せば終わり」にしないこと。
それが、自分らしく元気に暮らせる時間を支えるための一つの考え方だと思っています。
Q&A
Q1.フェリチンが低ければ、貧血ということですか?
いいえ。フェリチン低値と貧血は同じ意味ではありません。
フェリチンは主に身体に蓄えている鉄をみる指標で、鉄の貯えが減っていても、まだヘモグロビンが正常な段階があります。
反対に、炎症があるとフェリチンが高めに出ることがあります。そのため、ヘモグロビン、赤血球指数、炎症反応などと合わせて判断します。
Q2.フェリチンは30 ng/mL以上あれば安心ですか?
一つの数値だけで「大丈夫」と判断するのはおすすめできません。
フェリチンの診断上の基準は、健康状態や炎症の有無、対象とする患者さんによって異なります。
「30」という数字だけで自己判断するのではなく、症状やほかの検査結果と合わせて考えることが大切です。
Q3.鉄不足ならビタミンCも一緒にとった方がよいですか?
食事中の非ヘム鉄については、ビタミンCが吸収を助けます。
鉄を含む豆類や野菜などと、ビタミンCを含む野菜や果物を組み合わせる方法は理にかなっています。
ただし、鉄不足の原因が出血や吸収障害であれば、ビタミンCを増やすだけでは根本的な解決になりません。
Q4.鉄サプリを飲んでいれば病院へ行かなくてもよいですか?
鉄不足を繰り返している場合は、一度原因を確認することをおすすめします。
特に男性や閉経後女性の鉄欠乏性貧血、血便・黒い便、体重減少、腹部症状を伴う場合は、消化管の評価が必要になることがあります。
鉄を補うことと、鉄が減った原因を調べることは別の問題として考えると分かりやすいと思います。
Q5.鉄不足は何科に相談すればよいですか?
まず内科で相談して構いません。消化管出血や吸収の問題が疑われる場合は、消化器内科が適しています。
月経過多が疑われる場合は婦人科での評価が必要になることもあります。
「何科に行けばよいか分からない」という段階でも、まず現在の血液検査や症状を整理するところから始めれば大丈夫です。
鉄不足を指摘されたからといって、すべての方が詳しい検査を受ける必要があるわけではありません。
まずは、食事、月経、胃腸症状、便の変化、薬やサプリメントなど、身近なところから振り返ってみてください。
一方、鉄剤や鉄サプリを続けても改善しない、何度も鉄不足を繰り返す、血便・黒い便や体重減少がある、男性・閉経後女性で鉄欠乏性貧血を指摘された、といった場合には、その背景を一度確認する意味があります。
横濱おなか診療所では、「ピンピンコロリを日常生活に。」を合言葉に、検査値だけを見るのではなく、その原因や生活背景も一緒に整理しながら、「自分らしく元気に暮らせる時間」を支える診療を大切にしています。










