ピンピンコロリを日常生活に。 …
公開日:2026年09月11日
更新日:2026年09月09日

目次
「ピンピンコロリを日常生活に。」
横濱おなか診療所では、何歳まで生きるかだけでなく、「元気に自分らしく暮らせる時間」をできるだけ長くすることも大切だと考えています。
そのためには、病気だけでなく、疲れやすさや体力低下といった小さな変化にも目を向けることが大切です。
「最近、以前より疲れやすくなった」
「階段を上ると息切れする」
「なんとなく集中できない」
「健康診断では貧血ではなかったから、年齢のせいでしょうか」
診察室でも、このようなお話を伺うことがあります。
もちろん、疲れやすさや息切れには、睡眠不足、運動不足、心臓や肺の病気、甲状腺の病気など、さまざまな原因があります。
そのため、こうした症状があるからといって鉄不足とは限りません。
一方で知っておいていただきたいのが、
「ヘモグロビンが正常=体の鉄が十分」とは限らない
ということです。

第1回の記事では、鉄は血液をつくる材料だけではなく、酸素を運び、細胞でエネルギーをつくる反応など、全身で利用されていることをご紹介しました。
今回はその続きとして、貧血になる前に体の中では何が起きているのかを考えてみましょう。
鉄不足は「貯金」が減るところから始まります
鉄不足というと、多くの方は「ヘモグロビンが低くなること」を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、鉄不足は突然貧血になるわけではありません。
イメージとしては、家計の「貯金」を思い浮かべてみてください。
毎日の生活に必要なお金が足りなくなってくると、まず貯金を取り崩して生活します。
貯金が残っているうちは、普段どおり生活できているように見えるかもしれません。
鉄も似ています。
体に入ってくる鉄より、使ったり失ったりする鉄の方が多くなると、まず体に蓄えている鉄が減っていきます。
それでもしばらくはヘモグロビンを保つことができます。
さらに鉄不足が進み、蓄えていた鉄だけでは補えなくなって初めて、ヘモグロビンも低下して「鉄欠乏性貧血」として見つかることがあります。
つまり、
「貯金は減っているけれど、毎月の支払いはまだできている」
ような段階が存在するのです。
ヘモグロビンは「今使っている鉄」、フェリチンは「蓄えている鉄」の目安
そこで参考になる検査の一つがフェリチンです。
非常に簡単に表現すると、
ヘモグロビン(Hb)=現在、赤血球の中で酸素を運ぶ働きをしている状態を見る指標
フェリチン=体にどの程度鉄を蓄えているかを見る参考指標
と考えると分かりやすいでしょう。
一般には、ヘモグロビンがまだ正常なのに貯蔵鉄が減っている状態を「隠れ貧血」と呼ぶことがあります。
ただし医学的には、まだ貧血ではありませんので、「非貧血性鉄欠乏」「貧血になる前の鉄欠乏」と考える方が正確です。

フェリチンはいくつなら大丈夫?
フェリチンについて調べると、
「15未満」
「20未満」
「30未満」
など、さまざまな数字が出てきます。
ここが少し分かりにくいところです。
WHOでは、健康な成人における鉄欠乏の基準としてフェリチン15µg/L未満を用いています。
一方、臨床では30ng/mL未満を鉄貯蔵量低下の目安として扱う考え方も広く用いられています。
したがって、
「30未満なら全員治療」「30以上なら鉄不足ではない」
という単純な線引きはできません。
年齢、性別、症状、血算、トランスフェリン飽和度など、ほかの情報と合わせて考えます。
フェリチンだけで鉄不足を判断できない場合もあります
もう一つ重要なのが炎症です。
フェリチンは「貯蔵鉄」の指標である一方、感染症や慢性炎症があると数値が高くなる性質があります。
つまり、
実際には利用できる鉄が不足していても、フェリチンだけを見ると低く見えない
ことがあります。
そのため、必要に応じてCRPなど炎症の指標やトランスフェリン飽和度なども含めて判断します。
WHOも、炎症がある場合にはフェリチン値の解釈を調整する必要があるとしています。
フェリチンはとても役立つ検査ですが、一つの数字だけで体全体を判断する検査ではないのです。

40~80代では「鉄不足だろう」で終わらせないことも大切です
若い女性では、月経による鉄の喪失が鉄不足の大きな原因となります。
一方、今回の想定読者である40~80代、特に男性や閉経後の女性で鉄不足が確認された場合には、「鉄を食べればよい」と考えるだけでなく、その背景を確認することが大切です。
たとえば、消化管から少量ずつ出血していたり、胃腸の病気によって鉄を十分吸収できていなかったりする場合もあります。
英国消化器病学会のガイドラインでも、貧血を伴わない鉄欠乏について、男性・閉経後女性や消化器症状のある方では背景疾患を確認する重要性が示されています。
これは「怖い病気がある」という意味ではありません。
鉄不足という結果だけを見るのではなく、なぜそうなったのかまで考えることが大切ということです。

まず確認してほしいのは、最近の自分の変化です
鉄不足を心配して、すぐにサプリメントを購入する必要はありません。
まず一つ行うとすれば、最近の自分を振り返ってみてください。
「半年、1年前と比べて疲れやすくなっていないか」
「階段や坂道が以前よりつらくないか」
「食事量が減っていないか」
「体重が自然に減っていないか」
「便が黒くなったり、血が混じったりしていないか」
「月経のある方なら、量が増えていないか」
こうした情報は、血液検査の数字と同じくらい診察の参考になります。
健康診断の結果をお持ちであれば、以前の結果と並べて見てみることもおすすめします。
同年代の誰かと比べるより、「以前の自分からどう変わったか」を見ることが大切です。

どのような場合に医療機関へ相談した方がよい?
一時的に疲れているだけで、休息によって改善している場合には、すぐに鉄の検査が必要とは限りません。
一方、
- 疲れや息切れが数週間以上続いている
- 以前より明らかに体力が落ちた
- 日常生活や外出に影響している
- 健康診断で貧血や鉄に関する異常を指摘された
- 食欲低下や意図しない体重減少がある
- 黒い便や血便がある
- 月経量が非常に多い
- 鉄不足を以前から繰り返している
といった場合には、一度医療機関で相談してよいと思います。
特に、強い息苦しさ、胸の痛み、失神しそうなふらつき、大量の出血、黒い便と強い体調不良などがある場合には、鉄不足だけと考えず、早めの医療機関受診を検討してください。
診察では症状や食事、月経、便の状態、服用している薬などを確認し、必要に応じて血算、フェリチン、鉄代謝に関する検査などを相談します。
消化管からの出血が疑われる場合には、症状や年齢などに応じて胃や大腸を調べることもあります。
すべての方に同じ検査が必要なわけではありません。
鉄不足が見つかったら、次に考えたいこと
ここまで読むと、
「では、フェリチンが低かったら鉄を飲めばよいのでしょうか?」
と思われるかもしれません。
実は、そこが次に考えたい大切なポイントです。
鉄不足には、
食事から十分とれていない
うまく吸収できていない
どこかから失っている
必要量が増えている
炎症のために鉄をうまく利用できていない
など、さまざまな背景があります。
鉄を補うことが必要な場合もありますが、「なぜ鉄が不足したのか」を考えなければ、補っても再び減ってしまうことがあります。
次回、第3回では、
「鉄をとっているのに改善しないのはなぜ?」
をテーマに、胃腸からの吸収、出血、慢性炎症、食事など、鉄不足の「原因」の見つけ方について詳しくお話しします。
まとめ|「貧血ではないから大丈夫」だけで終わらせない
今回覚えていただきたいことは一つです。
ヘモグロビンが正常でも、体に蓄えている鉄が少なくなっている場合があります。
疲れやすさ、息切れ、集中しにくさなどは鉄不足でもみられることがありますが、それだけで鉄不足と診断することはできません。
フェリチンなどを含めて今の状態を確認し、必要であれば「なぜ不足したのか」まで考えることが大切です。
私は、こうした病気になる前の小さな変化に気づくことも、これから自分らしく動ける時間を守っていくための一つのきっかけになると考えています。
Q&A
Q1.健康診断でヘモグロビンが正常なら、鉄不足ではありませんか?
いいえ、ヘモグロビンが正常でも鉄不足のことがあります。
鉄不足では、まず体に蓄えている鉄が減り、その後さらに進行するとヘモグロビンが低下することがあります。
そのため、症状や背景によってはフェリチンなどを確認することがあります。
ただし、すべての方がフェリチンを測定する必要があるわけではありません。
Q2.フェリチンが30ng/mL未満なら「隠れ貧血」ですか?
30ng/mL未満は鉄不足を考える一つの目安ですが、その数字だけで診断するものではありません。
WHOの健康な成人に対する基準と、日常診療で用いられる目安には違いがあります。また、炎症があるとフェリチンは高くなることがあります。
症状や血算、炎症の有無、ほかの鉄代謝検査などを合わせて判断します。
Q3.疲れやすいので鉄サプリメントを飲んでもよいですか?
疲れやすいという理由だけで、自己判断で鉄を長期間飲み続けることはおすすめしません。
疲労には鉄不足以外にも多くの原因があります。また、鉄不足だった場合にも、その背景に出血や吸収の問題がないかを考える必要があります。
まず食生活や過去の健診結果を確認し、症状が続く場合は医療機関へ相談してください。
Q4.鉄不足は何科へ相談すればよいですか?
まずは内科で相談して構いません。
月経過多など婦人科的な原因が疑われる場合には婦人科、消化管からの出血や吸収障害が疑われる場合には消化器内科での評価が必要になることがあります。
最初からご自身で診療科を決めきれなくても問題ありません。
Q5.男性や閉経後の女性でも鉄不足になりますか?
なります。ただし、鉄不足になった理由を確認することが特に大切です。
食事量の低下などが原因となることもありますが、男性や閉経後の女性では消化管からの慢性的な出血などが背景にないかを検討することがあります。
鉄不足を繰り返す場合は、鉄を補うだけで終わらせず、原因について医師と相談してみてください。
すべての疲れや息切れを、鉄不足で説明することはできません。
一方で、「健康診断では貧血ではなかったから大丈夫」と思っていた方の中に、体に蓄えている鉄が少なくなっている方がいるのも事実です。
まずは、最近の体調や食事、以前の健康診断結果を振り返ってみてください。
疲れやすさや息切れが続く場合、フェリチン低値を指摘された場合、「年齢のせいなのか、一度調べた方がよいのか」と迷う場合には、その段階でご相談いただいて構いません。
横濱おなか診療所では、「ピンピンコロリを日常生活に。」を合言葉に、病気を見つけて治療することはもちろん、その先にある「自分らしく元気に暮らせる時間」を支えることも大切にしています。










