最近、歩くのが遅くなった、疲れ…
公開日:2026年08月23日
更新日:2026年08月23日

目次
【痩せることの先にある健康を考える シリーズ第1回】
同じ10kg減でも、脂肪を減らして筋肉を守れた場合と、筋肉まで失った場合では意味が違います。
GLP-1・マンジャロなどの減量治療を考える方へ、体重だけでなく筋肉・栄養・体力を守る健康的なダイエットを解説します。
「ピンピンコロリを日常生活に。」
横濱おなか診療所がこの言葉で大切にしているのは、単に長生きすることではありません。
自分の足で歩く、自分の口で食べる、好きな場所へ出かける――そんな「自分らしく動ける時間」をできるだけ長くすることです。
今回から8回にわたり、「痩せることの先にある健康を考える」というテーマで、ダイエットと健康について一緒に考えていきます。
第1回のテーマは、とても基本的ですが大切な疑問です。
「体重が減れば、それだけで健康になったと言えるのでしょうか?」
「ピンピンコロリとは?『自分らしく動ける時間』を長くするために横濱おなか診療所が大切にしていること」
痩せれば、それだけで健康になるのでしょうか?
診察室で、「10kg痩せました」と聞けば、多くの方は「それは良かったですね」と思うかもしれません。
もちろん、肥満のある方が適切に減量することで、血糖、血圧、脂質、脂肪肝などが改善することはあります。
しかし、私たちがもう一つ確認したいのは、「その10kgは、何が減った10kgなのか?」ということです。
たとえば同じ10kg減量でも、
Aさん:脂肪を中心に減らし、筋肉はできるだけ維持できた場合と、
Bさん:脂肪だけでなく筋肉も大きく減ってしまった場合では、
体重計に表示される数字は同じでも、体の中で起きていることは同じではありません。
体重計だけを見ていると、この違いにはなかなか気づけないのです。

同じ「10kg減」でも中身はまったく違います
減らしたいのは主に脂肪です
ダイエットでは体重そのものを減らすことが目的になりがちですが、本来減らしたいものの中心は余分に蓄積した脂肪です。
一方、できるだけ残したいものの一つが筋肉です。
筋肉は、単に腕や脚を太く見せるための組織ではありません。
歩く、立ち上がる、階段を上る、買い物に行く、旅行をする。
こうした日常生活を支えているのも筋肉です。
特に40代、50代以降は、年齢とともに筋肉量や筋力が低下しやすくなります。そのため、
減量によって必要以上に筋肉まで失ってしまうことには注意が必要です。
筋肉まで減りすぎるとどうなる?
体重は順調に減っていても、
- 以前より疲れやすくなった
- 階段がつらくなった
- 歩く速度が遅くなった
- 立ち上がるのが大変になった
- 食事量そのものがかなり減っている
といった変化が出ているのであれば、単に「痩せて順調」と考えるだけでなく、栄養状態や筋肉、体力にも目を向けたいところです。
「『年齢のせい』で済ませて大丈夫?歩く速さ・食欲・体力の変化から考えるフレイルと健康寿命」
近年の研究でも、GLP-1受容体作動薬などによる大きな体重減少では、脂肪量だけでなく除脂肪量も一定程度減少することが報告されています。
除脂肪量は筋肉だけを意味するものではありませんが、減量中に筋肉を守る工夫が重要であることを考える材料になります。
目指したいのは、
「体重は軽くなったけれど、前より動けなくなった」ではありません。
「余分な脂肪は減った。そして、これからも自分の足で元気に動ける」という減量です。

マンジャロで体重が減る時代だからこそ考えたいこと
最近はGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬について、テレビやインターネットで目にする機会が増えました。
実際、これらの薬には大きな体重減少効果が期待できるものがあります。
たとえば肥満のある成人を対象としたSURMOUNT-5試験では、72週間の平均体重変化率は、チルゼパチドで約20.2%減、セマグルチドで約13.7%減でした。
これは非常に大きな変化です。
だからこそ私は、こうした薬を単純に「良い」「悪い」で考えるのではなく、
「薬によって体重が減りやすくなった時間を、これからの健康づくりにどう使うか」
が大切だと考えています。
食欲が落ちたときこそ「栄養まで落とさない」
GLP-1/GIP関連薬を使用すると、食欲が低下し、以前ほど食べたいと思わなくなる方がいます。
これは薬の作用の一つですが、ここに注意点があります。
食事の量が大きく減れば、カロリーだけではなく、
タンパク質、鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミンなどの摂取量も一緒に減る可能性があるということです。
特に「食べなくても平気になったから」と、朝食を抜き、昼も少量、夜もほとんど食べない状態が続けば、体重は減っても栄養状態まで低下する可能性があります。
大切なのは、
「食欲が落ちた」ことと、「必要な栄養まで取らなくてよい」ことは別と考えることです。
食べる量が少なくなったときほど、「何を食べるか」が重要になります。

減量中に守りたい3つのもの
では、健康的に痩せるためには何を意識すればよいのでしょうか。
最初から完璧な食事や運動を目指す必要はありません。
まずは次の3つを意識してみてください。
① タンパク質を意識する
肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などは筋肉を維持するための材料になります。
食事量が減っている方ほど、
「今日はタンパク質を食べただろうか?」
と一度振り返ってみるだけでも違います。
具体的な必要量は、年齢、体格、腎機能、活動量などによって異なりますので、一律に大量に摂ればよいというものではありません。
② 食後に少し動く
「毎日30分運動してください」と言われると、それだけで難しく感じる方もいます。
そこでおすすめしたいのが、食後に5~10分程度歩くところから始めることです。
近所を少し歩く、買い物へ行く、家の中で動く。
最初はそれでも構いません。
大切なのは、特別な運動の日を作ることよりも、動くことを日常生活の中へ戻していくことです。
③ できれば筋肉にも刺激を入れる
歩くことに慣れてきたら、
- 椅子からゆっくり立ち上がる
- 軽いスクワット
- かかと上げ
- 壁を使った腕立て
など、無理のない範囲で筋肉に刺激を加えることも考えます。
減量中の運動は「カロリーを消費するため」だけではありません。
これからも動ける体を守るための運動でもあるのです。

ダイエットは「我慢する期間」ではなく「普通を変える期間」
短期間だけ、
「甘いものを全部禁止する」
「毎日1時間運動する」
「ほとんど食べない」
と頑張っても、それを何年も続けることは難しいものです。
薬を使用している場合も同じです。
チルゼパチドを用いたSURMOUNT-4試験では、36週間の治療で平均20.9%体重が減少したあと、薬を継続した群ではさらに体重が減った一方、プラセボへ切り替えた群ではその後52週間で平均14%の体重再増加がみられました。
これは「本人の意志が弱かった」と単純に片づけられる話ではありません。
肥満は慢性的な病態であり、体重が減ると食欲やエネルギー消費などにも変化が起こります。
だからこそ薬が効いている間を、
「薬だけで痩せる期間」ではなく、「これから続けられる生活を練習する期間」
として使うという考え方があります。
たとえば、
「毎日30分運動する」
ではなく、
「食後に10分歩く」
「食生活を全部変える」
ではなく、
「朝食に卵やヨーグルトを一品足す」
「糖質を一切食べない」
ではなく、
「甘い飲み物を水やお茶に替える」といった具合です。
私はこのくらいのほうが、長い目で見ると大切だと思っています。
体重計の数字の先にあるものを見る
これからのダイエットでは、評価する順番も少し変えてみてはいかがでしょうか。
体重
↓
脂肪と筋肉などの体組成
↓
血糖・脂質・血圧などの代謝状態
↓
歩く・立つ・動くといった体力
↓
毎日の生活の質
↓
将来も自立して暮らせるか
という見方です。
横濱おなか診療所が掲げる「ピンピンコロリを日常生活に。」も、ここにつながっています。
私たちが目指しているのは、「何歳まで生きるか」という数字だけではありません。
自分の足で歩く。
自分の口で食べる。
買い物へ行く。
旅行をする。
家族や友人に会いに行く。
そんな「自分らしく動ける時間」を、できるだけ長く保つことです。
ダイエットも、そのための一つの手段として考えたいのです。

まず一つ変えるなら
この記事を読んで、
「食事も運動も全部見直さなければ」と思う必要はありません。
まず今日から、
「夕食後に10分歩く」
あるいは、
「毎食、タンパク質になる食品が一つ入っているか確認する」
のどちらか一つから始めてみてください。
それだけでも、体重の数字だけを追うダイエットから、これからの体を守るダイエットへ視点を変える第一歩になります。
まとめ|痩せる目的は、軽くなることではなく元気に動き続けること
同じ「10kg減」でも、その中身によって意味は変わります。
脂肪を減らしながら、できるだけ筋肉と栄養を守る。
そして、体重だけではなく、血液検査、体力、食事、生活習慣まで見ていく。
GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬は、適切な対象者にとって強力な治療の選択肢になり得ます。
しかし、薬を使うことそのものがゴールではありません。
痩せたあとに、
「以前より歩けるようになった」
「出かけることが楽しくなった」
「健康を考える習慣ができた」と言えること。
それこそが、私たちが考える「痩せることの先にある健康」です。
次回は、「体重が減ったとき、脂肪と筋肉はどう変わるのか?」をテーマに、減量と体組成についてもう少し詳しく考えていきます。
Q&A
Q1.ダイエットをすると筋肉は必ず減りますか?
体重を減らす際には脂肪だけでなく除脂肪量もある程度減少することがあります。
ただし、減り方には個人差があり、十分な栄養、特にタンパク質の確保やレジスタンス運動などによって筋肉を守ることを意識することが大切です。
Q2.GLP-1を使えば運動しなくてもよいのでしょうか?
薬によって体重が減っても、筋力や体力を維持するための身体活動は別に考える必要があります。
最初から激しい運動をする必要はなく、食後の短い散歩などから始める方法があります。
Q3.マンジャロはダイエット薬ですか?
日本の承認上、マンジャロはチルゼパチドを成分とする2型糖尿病治療薬です。
肥満症に対しては同じチルゼパチドを成分とするゼップバウンドが承認されており、使用できる患者さんには一定の条件があります。
自己判断で使用するのではなく、医師と適応を確認することが大切です。
Q4.体重が順調に減っていれば、体組成まで測る必要がありますか?
全員が頻繁に測定しなければならないわけではありません。
ただ、特に中高年で減量幅が大きい場合や、「体重は減ったのに力が入りにくい」「以前より疲れやすい」といった変化がある場合には、体重だけでなく筋肉量、食事内容、活動量なども含めて評価することが役立ちます。
Q5.GLP-1の薬は一度始めたら、ずっと続けなければいけませんか?
治療期間は、体重だけでなく肥満に関連する健康状態、副作用、生活習慣、本人の希望などを含めて個別に判断します。
中止後に体重が再増加することがあるため、自己判断で中断せず、治療後の維持方法も含めて医師と相談することが大切です。
受診相談のご案内
ダイエットで大切なのは、短期間で何kg減らすかだけではありません。
「痩せたあとも、元気に歩き、食べ、やりたいことを続けられるか」という視点も忘れないようにしたいところです。
すべてを一度に変える必要はありません。まずは食事や運動で、今日できることを一つから始めてみてください。
GLP-1関連薬による治療を検討している方、すでに減量中で「筋肉まで落ちていないか」「食事量が減りすぎていないか」と心配な方は、一度医療機関で相談するのも一つの方法です。
横濱おなか診療所では、「ピンピンコロリを日常生活に。」を合言葉に、体重だけではなく、その先にある「自分らしく動ける時間」を一緒に考えていきたいと思っています。
横濱おなか診療所
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