「できればいつまでも自分の足で…
公開日:2026年08月19日
更新日:2026年08月19日

目次
最近、歩くのが遅くなった、疲れやすい、食欲が落ちた――「年齢のせい」と思っていませんか?
フレイルの前に気づきたい小さな変化と、健康寿命を支えるために今日からできること、医療へ相談する目安を解説します。
「ピンピンコロリを日常生活に。」
横濱おなか診療所では、何歳まで生きるかだけでなく、自分の足で歩き、自分の口で食べ、好きな場所へ出かけられる時間をできるだけ長くすることも、医療の大切な役割だと考えています。今回は、そのために見逃したくない「年齢とともに現れる小さな変化」についてお話しします。
「年齢のせい」は間違いではありません。でも、それだけとは限りません
「最近、階段を上ると疲れるようになった」
「前より歩くのが遅くなった気がする」
「一度に食べられる量が減った」
「出かけるのが少し面倒になってきた」
60代、70代、80代と年齢を重ねれば、体には少しずつ変化が起こります。筋力や体力が若い頃と同じではないのは、自然なことです。
ですから、私は「年齢のせい」という考え方をすべて否定する必要はないと思っています。
ただし、すべてを年齢だけで片づけてしまうのも、少しもったいないと感じます。
歩く速さが落ちた背景には活動量の低下があるかもしれません。食欲低下の背景には、口や歯の問題、薬の影響、胃腸の病気、気分の落ち込みなどが隠れていることもあります。
高齢者の食欲低下や低栄養には、身体的・医学的な原因だけでなく、生活環境や社会的な要因も関係します。
「年齢だから仕方がない」と結論を出す前に、もう一歩だけ見てみる。それが大切です。

大切なのは「同じ年齢の人」より「以前の自分」と比べること
健康について考えるとき、
「70歳ならこのくらい歩ければ大丈夫」
「80歳になれば食が細くなるのは普通」
と、年齢の平均と比べたくなるかもしれません。
しかし、高齢になるほど個人差は大きくなります。
WHOも、同じ年齢であっても身体や精神の能力には非常に大きな違いがあるとしています。
そこで、もっと分かりやすい物差しがあります。
「半年前、1年前の自分と比べてどうか」です。
・以前は近所のスーパーまで歩いていたのに、最近は車を使うようになった。
・一年前は一人前食べられたのに、最近は残すことが増えた。
・友人との集まりを楽しみにしていたのに、このところ断ることが多くなった。
一つひとつは小さな変化です。しかし、こうした「以前との違い」は、今の体や暮らしを見直すヒントになります。
これらのどれか一つがあるからといって、すぐに病気やフレイルと診断されるわけではありません。
大切なのは、以前にはなかった変化がいくつか重なっていないか、そしてその変化が続いていないかを見ることです。

フレイルは「弱ってしまった状態」だけを指す言葉ではありません
こうした話をするときに知っておきたいのが、フレイルという言葉です。
フレイルとは一般に、健康な状態と、日常生活で介護や支援が必要な状態との中間に位置する段階を指します。
ポイントは、「寝たきりになった状態」を意味する言葉ではないことです。
まだ自分で買い物や食事ができる。
まだ身の回りのこともできる。
けれども、
「以前より少し体力が落ちてきた」
「活動範囲が狭くなってきた」
という段階もあります。
さらにフレイルは筋力だけの問題ではありません。
身体的な変化に加えて、気分や認知機能などの心理面、人との交流や社会参加といった社会面も関係します。
そして重要なのは、早い段階で気づき、その人に合った対応を行うことで、状態が改善したり、進行を緩やかにできたりする可能性があることです。

なぜ小さな変化を早めに見つけることが大切なのでしょうか
人の体は、一つのことだけで弱っていくとは限りません。例えば、
食欲が落ちる
↓
食べる量が減る
↓
筋肉が落ちる
↓
歩くのがおっくうになる
↓
外出が減る
↓
さらに活動量や人との交流が減る
というように、小さな変化同士が影響し合うことがあります。
逆に言えば、この流れのどこかで気づくことができれば、生活を見直すきっかけを作れます。
病気になってから一気に健康を取り戻そうとするよりも、元気なうちから「少し変わってきたかな」と気づく。
私は、この「まだ困ってはいないけれど、以前とは少し違う」という段階が、とても大切だと考えています。
まず一つ変えるなら「歩く・食べる・つながる」から
フレイルを考える際には、栄養・身体活動・社会参加の三つが重要な柱になります。
難しい言葉にせず、当院では「歩く・食べる・つながる」と考えると分かりやすいと思っています。
歩く――いつもの生活に少しだけ動く時間を足す
いきなり激しい運動を始める必要はありません。
買い物に少し遠回りして行く。
散歩を少しだけ長くする。
家の中で立ったり座ったりする回数を増やす。
こうした日常の身体活動も立派な運動です。
厚生労働省の「身体活動・運動ガイド2023」でも、高齢者を含め、個人の状態に合わせて身体活動を増やし、筋力を保つ取り組みが推奨されています。
持病や膝・腰の痛みがある方は、無理に運動量を増やさず、医師などと相談しながら行ってください。
食べる――「減らす」だけでなく「足りているか」も考える
若い頃から、
「太らないように食べすぎない」ことを意識してきた方は多いと思います。
しかし高齢期には、食べすぎだけでなく低栄養にも注意が必要です。
特に、知らないうちに体重が減っている、食事量が落ちている場合には、一度食生活を振り返ってみましょう。
肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などから、たんぱく質を無理なくとることは、筋肉量を維持するうえで重要です。
ただし、腎臓病や糖尿病などで食事療法を行っている方は内容が異なるため、自己判断で食事を大きく変えないようにしてください。
つながる――外出や人との交流も健康の一部です
「健康」というと血液検査や運動ばかりに目が向きますが、人とのつながりも大切です。
友人とお茶をする。
孫に会いに行く。
趣味の集まりに参加する。
スーパーへ買い物に行く。
こうした予定があると、自然に着替え、歩き、話し、考えます。
厚生労働省も、フレイル対策では栄養や運動とともに社会参加を重要な柱として位置づけています。

医療は「病気を探すためだけ」に使うものではありません
「特に痛いところもないのに病院へ相談してよいのでしょうか」
そう思われる方もいるでしょう。
もちろん医療の基本は、病気を見つけ、必要な治療を行うことです。
疲れやすさの背景に貧血や心肺の病気がないか。
体重減少の背景に胃腸や全身の病気がないか。
食欲低下が薬の影響ではないか。
必要に応じてこうした原因を確認することは、とても大切です。
しかし私は、医療は「病名をつけるためだけ」に利用するものではないとも考えています。
健診結果、体重の変化、普段の食事、歩行や活動量、服用している薬などを一緒に見ながら、
「去年と比べて何が変わったのでしょう」
と整理することも、医療の役割の一つです。
検査をたくさん行うこと自体が目的ではありません。
まず標準的な保険診療を土台に、治療すべき病気がないかを確認する。
そのうえで必要に応じて、生活習慣や将来の健康について一緒に考える。
それが当院の考える予防医療です。
こんな変化が続くときは一度相談してみてください
「年齢のせいかもしれない」と思っていても、次のような変化が続く場合には、かかりつけ医などへ一度相談してみてよいと思います。
- 意図せず体重が減っている
- 食欲低下が続いている
- 以前より明らかに疲れやすくなった
- 歩く速さや活動量が目に見えて低下した
- 息切れ、動悸、めまいなどを伴う
- 飲み込みにくい、むせることが増えた
- 外出や人との交流が急に減った
- 気分の落ち込みや物忘れなど、ほかの変化も気になる
- 「何となく以前と違う」という状態が続いている
すべての方に同じ検査が必要なわけではありません。
症状や経過、体重変化、食事、服薬状況などを確認したうえで、血液検査など必要な検査を相談していきます。
急激な体調悪化、強い息苦しさ、意識の変化などがある場合には、通常のフレイル相談とは別に、早めの医療機関受診が必要です。

「ピンピンコロリを日常生活に。」――弱る前の小さな気づきを大切に
横濱おなか診療所が掲げる「ピンピンコロリを日常生活に。」とは、特別なアンチエイジング法を行うことではありません。
自分の足で歩く。
自分の口で食べる。
買い物へ行く。
好きな人と会う。
自分でできることを続ける。
そんな「自分らしく動ける時間」を少しでも長くするために、日々の小さな変化にも目を向けていく、という考え方です。
老化そのものを止めることはできません。
けれども、
「年齢のせいだから仕方がない」から、「以前の自分と何が変わったのだろう」へ。
見方を少し変えるだけで、できることが見つかる場合があります。
「横濱おなか診療所が考える『ピンピンコロリ』について詳しくはこちら」
まとめ|年齢ではなく「変化」に目を向けてみましょう
年齢を重ねれば、体は変化します。
そのことを必要以上に怖がる必要はありません。
一方で、歩く速さ、食欲、体重、外出回数、疲れやすさなどの変化を、すべて年齢のせいとして見過ごす必要もありません。
まずは一年前の自分を思い出してみてください。
「少し歩かなくなったな」
「食べる量が減ったな」
「人と会わなくなったな」
と気づくことがあれば、それが健康を見直す最初の一歩です。
特別なことを一度に始める必要はありません。
今日、できることを一つ。
それを積み重ねることが、「自分らしく元気に暮らせる時間」を考えることにつながると、私は考えています。
Q&A
Q1.最近歩くのが遅くなりました。年齢のせいでしょうか?
年齢による変化の可能性はありますが、それだけとは限りません。
筋力や活動量の低下だけでなく、関節の問題、栄養不足、貧血、心肺機能の低下などが影響する場合もあります。
「以前と比べて明らかに遅くなった」「外出そのものが減った」と感じる場合には、一度生活全体を振り返ってみてください。
Q2.健診で異常がなければ、フレイルの心配はありませんか?
健診で異常がないことは大切な安心材料ですが、それだけですべての変化を判断することはできません。
血液検査などでは分かりにくい、歩く速さ、食事量、活動量、人との交流などの変化もあります。
健診結果とともに、「去年と比べた自分の暮らし」を見ることをおすすめします。
Q3.フレイルになったら元には戻れないのでしょうか?
フレイルは、適切に対応することで改善する可能性がある状態です。
厚生労働省も、フレイルには可逆性があり、栄養・身体活動・社会参加などへの取り組みが重要としています。
ただし、原因や体の状態は一人ひとり異なります。「運動だけすればよい」と考えず、食事や病気、薬、生活環境なども含めて考えることが大切です。
Q4.何歳からフレイルや健康寿命を意識すればよいですか?
「何歳から」と決める必要はなく、元気なうちから考えて構いません。
特に「以前より少し疲れやすい」「歩く量が減った」と感じ始めたときは、生活を振り返るよいタイミングです。
WHOもHealthy Ageingを、単に病気の有無ではなく、高齢期にもその人が大切にする活動を続けられる機能を維持することとして捉えています。
Q5.アンチエイジングや自由診療を受ければ、フレイルを防げますか?
自由診療を受けることでフレイルや健康寿命の延伸が保証されるわけではありません。
まず大切なのは、治療が必要な病気を適切に確認し、健診や標準的な医療を健康づくりの土台にすることです。
そのうえで予防医療や自由診療を利用する場合も、「検査を受けること」そのものを目的にせず、自分の身体や生活を振り返る一つの選択肢として考えることが大切です。
「最近少し疲れやすくなった」「食べる量が減った」「歩くのが遅くなった気がする」。
そんな変化があっても、「この程度で病院へ行ってよいのかな」と迷う方は少なくありません。
すべてを一度に調べたり、生活を大きく変えたりする必要はありません。まずは、最近の体重や食事、活動量を振り返るところから始めてみてください。
変化が続いている場合や、「これは年齢のせいなのか、一度確認した方がよいのか」と迷う場合は、その段階でご相談いただいて構いません。
横濱おなか診療所では、病気を診断して治療することを土台にしながら、「ピンピンコロリを日常生活に。」という考えのもと、その先にある「自分らしく元気に暮らせる時間」についても一緒に考えていきたいと思っています。
横濱おなか診療所
https://yokohama-onaka.com/
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「横濱おなか診療所の健康・予防に関する記事を見る」
執筆に使用した主要な情報源
- 厚生労働省「健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ」
フレイルの考え方、身体的・心理的・社会的フレイル、栄養・身体活動・社会参加の3本柱を確認。 - 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
高齢者を含む身体活動・運動の考え方を確認。 - 厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の低栄養予防」
高齢者の食欲低下・低栄養の背景、たんぱく質・運動の重要性を確認。 - 日本老年医学会「フレイル診療ガイド2018年版」
日本におけるフレイル診療の基本資料として確認。 - WHO「Healthy ageing and functional ability」「Integrated care for older people(ICOPE)」
高齢期の健康を「機能」と「その人らしい生活」の観点から捉える考え方を確認。









