「年齢とともに体重が落ちにくく…
公開日:2026年08月25日
更新日:2026年08月23日

目次
【痩せることの先にある健康を考えるシリーズ 第3回】
「体重が増えてきたから、そろそろ痩せないと」
「マンジャロなどを使って体重が落ちれば、健康になったと考えてよいのでしょうか?」
診察室でも、こうしたご相談をいただくことがあります。
もちろん、肥満がある方にとって体重を適正な方向へ近づけることは大切です。
ただ、私たちが本当に見たいのは、体重計に表示される数字だけではありません。
「痩せれば健康になる?『10kg減』の中身から考える、本当に大切なダイエット」
血糖はどうなっているか。
中性脂肪やコレステロールはどうか。
脂肪肝はないか。
筋肉は保たれているか。
どのような食事をしているか。
毎日の活動量はどうか。
こうしたものを一緒に見て初めて、「痩せたことで身体がどう変わったのか」が分かってきます。
今回の「痩せることの先にある健康を考えるシリーズ」第3回では、肥満を単なる体重の問題ではなく、「代謝」という視点から考えてみます。

肥満を「代謝の渋滞」と考えてみる
「代謝」という言葉はよく聞きますが、少し分かりにくい言葉かもしれません。
簡単に言えば、私たちが食事から取り込んだ糖や脂肪などを、身体を動かすためのエネルギーとして使ったり、必要な場所へ蓄えたりする仕組みのことです。
身体の中では毎日、大量のエネルギーが行き来しています。
ところが、使う量よりも入ってくるエネルギーが多い状態が長く続くと、余ったエネルギーは脂肪として蓄積されていきます。
そして脂肪の蓄積が進むと、
エネルギーの過剰な流入
↓
脂肪の蓄積
↓
インスリン抵抗性
↓
糖や脂肪をうまく処理しにくくなる
↓
高血糖・脂質異常・脂肪肝などにつながるという流れが起こることがあります。
これを患者さんへ説明するとき、私は「身体の中で代謝の渋滞が起きている状態」と考えると分かりやすいのではないかと思います。
道路に車が入り続けても、スムーズに流れていれば大きな問題にはなりません。
ところが、入り口から次々と車が入ってくる一方で、出口へうまく流れなくなれば渋滞します。
肥満も同じように、単に「身体に脂肪が多い」というだけではなく、入ってきたエネルギーをうまく処理しにくい状態が背景にある場合があるのです。

私たちの身体は「糖」と「脂肪」を使い分けています
健康な身体には、その時々の状況に応じてエネルギー源を切り替える仕組みがあります。
例えば、
- 食事をした後は、主に糖をエネルギーとして使う
- 食事をしていない時間や運動中は、脂肪を利用する割合が増える
というように、身体は糖と脂肪を使い分けています。
この能力を「代謝の柔軟性(metabolic flexibility)」と呼びます。
イメージとしては、ガソリンと電気を状況に応じて使い分けるハイブリッド車のようなものです。
道路状況に合わせて燃料を切り替えられる車は効率よく走ることができます。
同じように身体も、食事、空腹、運動などに応じてエネルギー源を柔軟に切り替えています。
医学的にも、代謝の柔軟性とは「エネルギー需要や栄養状態の変化に応じて、利用する燃料を調整する能力」と考えられており、肥満やインスリン抵抗性との関連が研究されています。
ただし、「代謝の柔軟性が低いから肥満になる」と単純に原因と結果を決められるわけではありません。肥満、インスリン抵抗性、筋肉、肝臓、ミトコンドリアなど多くの要素が相互に関係しています。
大切なのは、体重だけではこうした身体の変化は見えないということです。

「インスリン抵抗性」とは何でしょうか?
代謝を考えるうえで重要なのが、インスリン抵抗性です。
インスリンは、血液中の糖を筋肉や肝臓などへ取り込むための「合図」を出すホルモンです。
例えば、インスリンを「鍵」にたとえてみましょう。
通常はインスリンという鍵を使うと、細胞の扉が開き、血液中の糖を中へ取り込むことができます。
ところが、内臓脂肪の蓄積などさまざまな影響によって、インスリンが効きにくくなることがあります。
すると身体は、
「インスリンが効きにくいなら、もっとインスリンを出そう」と頑張ります。
この状態が続くと、血糖値が上がりやすくなり、将来的に糖尿病につながることがあります。
つまり、
「血糖値がまだ正常だから代謝も問題ない」とは必ずしも言い切れません。
血糖、HbA1c、中性脂肪、HDLコレステロール、腹囲、血圧などを組み合わせて身体全体を見ることが大切です。
脂肪肝も「代謝の状態」を映すサインの一つです
もう一つ、肥満との関係でぜひ知っておいていただきたいのが脂肪肝です。
脂肪肝というと、
「お酒をたくさん飲む人の病気」と思われることがあります。
しかし現在では、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの代謝異常と関連した脂肪肝が非常に重要視されています。
現在はこうした状態をMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)と呼ぶようになっています。
脂肪肝は肝臓だけの問題ではなく、身体全体の代謝状態を考えるきっかけにもなります。AASLD(米国肝臓学会)も、MASLDが肥満、2型糖尿病、高血圧、高コレステロールなどの代謝リスクと深く関連することを示しています。
健康診断で、
「肝臓に脂肪がついています」
「ALTが少し高いですね」
と言われたときは、肝臓の数値だけを見るのではなく、体重、腹囲、血糖、脂質、血圧、食事、運動なども一緒に振り返ることが大切です。
では、マンジャロなどのGLP-1/GIP薬はどう考えればよいのでしょうか?
マンジャロ(チルゼパチド)などのGLP-1/GIP関連薬は、食欲を抑え、体重減少を助ける非常に強力な治療手段です。
しかし、ここでも大切なのは、
「何kg痩せたか」だけで治療を評価しないことだと考えています。
薬によって食事量が減ると、体重は減りやすくなります。
一方で、食事量が極端に減れば、タンパク質や鉄、亜鉛、ビタミン、ミネラルなど必要な栄養素まで不足する可能性があります。
講義でも、「食欲が落ちること」は治療効果であっても、「栄養まで落ちること」は避けたい問題として整理されています。
また、減量の過程では脂肪だけでなく筋肉も減る可能性があります。
そのため、
体重
+体組成
+栄養
+代謝
+体力
+生活習慣
まで見ることが重要です。
GLP-1/GIP薬についても、「薬だけで治療を完結させる」のではなく、薬が効いて食欲が落ち着いている時期を、食事や運動、生活習慣を見直す機会として使うという考え方があります。
「肥満治療を始める前に知っておきたいこと|内科で行う体重管理」
体重計に加えて、こんなものも見てみましょう
では、ご自宅では何を意識すればよいのでしょうか。
すべてを細かく管理する必要はありません。
まずは、
① 体重・腹囲
体重だけでなく、お腹まわりの変化も確認します。
② 健診の血糖・HbA1c
糖を処理する力の変化を知る重要な手がかりです。
③ 中性脂肪・HDLコレステロール
脂質の代謝状態を考える材料になります。
④ 肝機能・脂肪肝
AST・ALTや腹部超音波検査の結果を確認します。
⑤ 食事内容
「どれだけ減らすか」だけではなく、タンパク質、野菜、食物繊維などが不足していないかを見ます。
⑥ 活動量
体重が減っていても、ほとんど歩かなくなっているのであれば見直しが必要です。
といったところから始めてみてください。
横濱おなか診療所でも、健康診断は病気の早期発見の大切な土台ですが、数字だけで身体のすべてを判断するのではなく、生活や体力の変化まで含めて考えることを大切にしています。

まず一つ変えるなら「食後に少し歩く」
「代謝を改善しましょう」
と言われても、何をすればよいのか分からないと思います。
そこで、まず一つ始めるのであれば、
食後に5~10分程度歩いてみることをおすすめします。
講義でも、食後10~15分程度の歩行が、日常生活に取り入れやすい方法として紹介されています。
最初から、
「毎日30分運動しなければ」と考える必要はありません。
夕食後に家の周りを少し歩く。
エレベーターではなく階段を一つだけ使う。
甘い飲み物を一回だけ水やお茶に変える。
こうした小さな行動でも構いません。
大切なのは、完璧な健康生活を数日続けることではなく、無理なく続けられる「普通」を少しずつ変えていくことです。講義でも、行動を「一口大」に小さくする考え方が強調されています。
「痩せたか」ではなく、「身体がどう変わったか」を見る
肥満治療の目的は、体重計の数字をできるだけ小さくすることではありません。
血糖が改善した。
脂肪肝が改善した。
血圧が安定した。
階段を上りやすくなった。
歩く距離が増えた。
疲れにくくなった。
筋肉を保ちながら減量できた。
このような変化が積み重なって初めて、「痩せたことが健康につながった」と言えるのではないでしょうか。
講義でも、減量の評価を「体重中心」から「健康中心」へ移し、
体重 → 体組成 → 代謝 → 体力 → QOL → 将来のリスク
まで見ることが重要とされています。
横濱おなか診療所が大切にしているのも、この考え方です。
「ピンピンコロリを日常生活に。」
これは単に長生きを目指すという意味ではありません。
自分の足で歩く。
自分の口で食べる。
買い物へ行く。
好きな場所へ出かける。
そんな「自分らしく動ける時間」をできるだけ長くすることを大切にしています。
体重を減らすことも、そのための一つの手段です。
しかし、体重だけをゴールにしない。
「痩せた先で、どんな身体で、どんな生活を送りたいのか」
そこまで一緒に考えることが、本当の意味での健康づくりにつながると考えています。
「ピンピンコロリとは?『自分らしく動ける時間』を長くするために」
まとめ|体重計は「ゴール」ではなく、一つの指標です
肥満を見るときに大切なのは、体重だけではありません。
肥満の背景には、インスリン抵抗性や脂質代謝、脂肪肝、食生活、活動量など、さまざまな要素が関係しています。
身体には、本来、糖と脂肪を状況に応じて使い分ける仕組みがあります。
だからこそ、
「何kg痩せたか」だけではなく、
「血糖はどうなったか」
「脂肪肝はどうなったか」
「筋肉は守れているか」
「以前より動けるようになったか」
まで見てみてください。
もし健康診断で血糖値、脂質、肝機能、脂肪肝などを指摘されている場合や、体重が増えて何から始めればよいか分からない場合には、一度医療機関で身体全体の状態を確認することも一つの方法です。
すべてを一度に変える必要はありません。
まずは今日、できることを一つ。
その小さな積み重ねが、体重の数字だけでは見えない、「痩せることの先にある健康」につながっていきます。

Q&A
Q1.体重が減れば、代謝も必ずよくなりますか?
体重が減ることは代謝改善につながることがありますが、「体重が減った=必ず健康になった」とは限りません。
減量によって内臓脂肪が減り、血糖・血圧・脂質・脂肪肝などが改善することは期待できます。
一方で、食事量を極端に減らして筋肉や必要な栄養まで失ってしまうと、「減った体重の中身」が望ましいとは言えない場合があります。
そのため、体重だけでなく、腹囲、血糖・HbA1c、脂質、肝機能、筋肉量、食事内容、活動量なども一緒に見ていくことが大切です。
講義資料でも、減量を「体重中心」ではなく、体組成・代謝・体力・QOL・将来リスクまで含めて評価する考え方が示されています。
Q2.インスリン抵抗性は、健康診断の血糖値が正常でもあるのでしょうか?
血糖値が基準範囲内でも、インスリンが効きにくくなり始めている可能性はあります。
インスリンの働きが低下すると、身体はより多くのインスリンを分泌して血糖を保とうとすることがあります。
そのため、初期には血糖値だけを見ても変化が分かりにくいことがあります。
体重や腹囲の増加、中性脂肪高値、HDLコレステロール低値、脂肪肝、血圧なども含め、身体全体の「代謝の状態」を見ることが重要です。
Q3.脂肪肝と言われました。痩せれば放置しても大丈夫ですか?
脂肪肝を指摘された場合は、体重だけで判断せず、一度その背景を確認することをおすすめします。
現在は、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常などの代謝異常と関連する脂肪性肝疾患をMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)と呼びます。
MASLDは肝臓だけの問題ではなく、身体全体の代謝異常と関連する病態として捉えられています。
健診で脂肪肝や肝機能異常を指摘された場合は、血糖、脂質、血圧、飲酒量なども含めて評価し、必要に応じて腹部超音波検査や追加の血液検査を検討します。
Q4.マンジャロを使えば、食事や運動を気にしなくてもよいですか?
マンジャロなどのGLP-1/GIP関連薬を使用していても、食事・運動・筋肉・栄養を一緒に考えることが重要です。
薬によって食欲が落ちると体重は減りやすくなりますが、食事量そのものが減ることで、タンパク質、鉄、亜鉛、ビタミン、ミネラルなどの摂取も不足する可能性があります。
GLP-1/GIP関連薬は非常に有力な治療手段ですが、薬だけで治療を完結させるのではなく、薬が効いている時期を生活習慣を見直す機会として活用することが大切です。
日本肥満学会も、肥満症治療薬について安全・適正使用に関するステートメントを公表しています。
Q5.「代謝をよくする」ために、まず何から始めればよいですか?
最初から完璧を目指さず、続けられる小さな行動を一つ始めてみてください。
例えば、夕食後に5~10分歩く、甘い飲み物を水やお茶に置き換える、朝食にタンパク質源を一品加えるなどです。
講義でも、「毎日30分運動」のような大きな目標ではなく、夕食後5~10分歩くなど、行動を「一口大」に小さくすることが勧められています。
大切なのは、一時的に頑張ることではなく、健康的な行動を少しずつ自分の「普通」にしていくことです。









